地方創生・地域活性化の第一線で活躍する「地域おこし協力隊」

未だ多くの課題を抱えている「地域おこし協力隊」制度について現役の隊員および受け入れ自治体職員への
アンケートおよび直接取材を通して浮き彫りになった現状とその可能性について共有するサイトです


先進自治体に学ぶ制度を有効活用する方法⑥ 〜定住・起業支援、その他〜

 
 

先進事例に学び制度を有効活用する方法として具体的なポイントや注意点についてこれまでご紹介しておりますが、今回はその最終回として「定住・起業支援、その他」について先進事例に学ぶ具体的なポイントや注意点についてご紹介していきたいと思います。

現在約900の自治体で協力隊を受け入れており、一自治体に一人の担当者がいるとしても900名の担当者がいることになり、それぞれに地域の歴史、地域を取り巻く環境、組織文化、地域住民の方々との関係など千差万別だと思いますが、それでも、受け入れ担当職員の皆さんが地域住民・役場・協力隊の三者がハッピーになれるような制度活用の一助になれば幸いです。

なお、毎回の注釈で恐縮ですが、本ブログは協力隊や受け入れ自治体の職員の皆さんへの直接取材とアンケート調査*1の結果に基づく内容になっていること、全国で約4,000名が活躍する地域おこし協力隊全員にお話をお聞きすることは困難であることからお話をさせていただく内容はあくまでも一部から全体を推測するものであり、あくまでも傾向であること、そして、ご協力いただいた皆さんに匿名での取材をお願いしておりますので、個人・団体を特定できる情報は一切掲載していないことをご理解ください。


*1 : 2016年5月から7月にかけて地域おこし協力隊のみなさんを対象に行ったインターネットアンケート。結果の詳細はこちらをご覧ください。

定住・起業支援

隊員の任期満了が近づくにつれて意識しなければならないことは、そのまま定住してくれるだろうか、そして、その定住を支える仕事が見つかるだろうかという点ではないでしょうか。
これまでお話ししてきたように隊員を導入する計画の中で隊員の任期満了後の仕事も意識しながら隊員の活動内容を決定し、隊員着任時に活動計画を作っていれば、任期満了が近づいてから悩むことはそれほど多くはないと思うのですが、実態はそんなことはなく、多くの隊員・職員が悩んでおられます。

しかし、地域おこし協力隊の導入以前の問題として移住者を増やしたいと考えており、そのための一手段として地域おこし協力隊を検討し導入したのであれば、その他の移住・定住支援制度があってしかるべきではないでしょうか。

たとえば、これまでも何度かお伝えしてきたようにそもそも中山間地域では居住できる住宅がないという状況にあるところも少なくなく、まず、そこから手をつけなければならないでしょう。具体的には、空き家対策や官営住宅の整備などになりますが、時間がかかることだけに目標とする定住者数を地域のあるべき姿や地域おこしのあり方で定義し、早めに準備をスタートさせなければなりません。

また、そこに住むということは、そこに仕事がなければならないという現実にもきちんと対処しなければなりません。そのためには以前ご紹介した「逆指名方式」などで具体的なニーズのある職業経験者を地域おこし協力隊として呼び込むという方法も真剣に考える必要があります。

つまり、市・町・村独自の定住支援制度を検討し、試行していくことが大切だと思います。

昨今はいろいろな自治体で様々な定住支援制度が導入され始めていますが、自地域が求める移住者にしっかりと訴える制度設計とすることも大切だと思います。

移住・定住支援の大前提として地域として雇用創出をどのように行っていくのかを計画的に考える必要があると思います。地域としての雇用創出戦略は、これまでも何度かお話ししてきた通り地域のあるべき姿や地域おこしのあり方と密接に関連していますので、実は最初に考えておくべき、最上位の課題ではないでしょうか。
しかし、積極的に企業誘致活動を行っても地理的な条件などもあり、そう簡単には行かず、また、起業支援を推進する目的で経済産業省の起業支援制度を導入しても地域の人材力がそもそも乏しい状況の中で応募自体がほぼないという難しい実態があるのではないでしょうか。

つまり、地域における雇用の拡大は、おそらく地域おこしにおけるもっとも大きな課題であると同時に、地域おこしを成功に導く最も大きな鍵だと言え、時間をかけて解決していなければならない問題なのではないでしょうか。

上記のような視点で地域の雇用の問題を見てみると、これまでお話をしてきたような地域おこし協力隊制度の活用に一筋の光明を見ることができるのではないでしょうか。
地域おこし協力隊を導入すれば少なくとも3年間は移住者である隊員の生活を支えることができます。また、その3年間の隊員の活動を地域の雇用創出という方向にうまく活かすと同時に任期中に任期満了後の生業作りに繋がる事業から収入を得る副業を許可するなど積極的な起業支援を行えば、3年後か5年後か10年後か分かりませんが任期満了した隊員が雇用を創出するような事業運営に成功するかもしれません。
また、コミュニティー型の隊員の活動やライススタイルを積極的に発信していくことでそのライフスタイルに憧れた移住者が現れるかもしれません。

実は、目の前にいる地域おこし協力隊が最大限に力を発揮できるように、すべきことをきちんと行っていくことが雇用の創出を踏まえた移住・定住者を増やす意味では一番の近道なのかもしれません。


その他のポイント

以上、地域おこし協力隊制度を上手に活用していくために先進的な事例に学ぶ、ということで地域おこし協力隊の導入の検討から任期満了後の定住支援までステップ毎に注意すべきポイントについて触れてきましたが、ここでは、地域おこし協力隊を導入する上で全般的に注意すべきその他のポイントについて触れていきたいと思います。

(1) 隊員とは対等なパートナー関係を

これまでに繰り返し隊員と職員の信頼関係の大切さについて触れてきましたが、そのために大切なことは職員から隊員、隊員から職員という方向で見下す関係ではなく、対等なパートナーの関係を意識することだと思います。

それは仮に職員から見た隊員がパートナーとしては未熟だと感じたとして、または隊員から見て職員が保守的で頭の固い役場の職員だと感じたとしても、互いに地域のあるべき姿を目指す一つのチームの仲間であると考え、諦めず、対話をし続け、相手にパートナーとして期待し続けることが大切ではないかと思います。

特に地域おこし協力隊の場合は自治体から報酬を貰っているという立場上職員から隊員への上下関係のようなものができてしまう傾向が強く、それが隊員から職員への過剰な期待に繋がることも少なくなく、結果的に活動がうまくいかない理由を自治体や職員のせいにすることも少なくないのではないかと思います。
そのため隊員を担当する職員は、受け入れ態勢の整備など隊員が活動しやすいような環境整備をプロとしてきちんと行うことを前提に、任期中の隊員には主体的、自主的に行動することを期待すると同時に自治体職員は後方支援に回る姿勢を一貫してとっていくことが重要ではないかと思います。

(2) 業種の垣根を超えて先進的な事例を絶えず学ぶ姿勢

これまでお話ししてきたとおり地域おこし協力隊は自由度の高い制度であると同時にまだまだ発展途上の制度でもあることから、地域おこし協力隊を受け入れている全国の自治体において日々試行錯誤がなされており、日進月歩でより良い運用方法が考え出されていると言えます。

つまり、地域おこし協力隊を受け入れる予定の職員や現在受け入れている自治体の職員はともに日々アンテナを高くし、より良い運用方法、制度の活用方法を模索すべきだと思います。

時にそれは異業種における組織開発や人材育成の事例かもしれないですし、データ活用の事例かもしれず、視野を広く持ち、高い視座で活用できる考え方、仕組みなどを絶えず学ぶことが地域おこし協力隊制度をより一層うまく活用していく上で、ひいてはあるべき地域の姿を実現する上で大切ではないかと思います。

特に人材の流動性が低い自治体の中では座学だけでなく、OJTなどで異業種の現場の中から体験的に学ぶことも大切かもしれず、学習手法から見直すことも時には必要かもしれません。

(3)地域おこし協力隊徒弟制度

地域おこし協力隊制度の運用期間が長くなり、任期を満了した隊員も多くなってきたときに大切なことは先輩の知見を後輩にきちんと伝えていく仕組み作りだと思います。
なぜこんなことを言うのかといえば、実は長く隊員を受け入れている自治体の中でも隊員の世代間の引き継ぎがなく、3年毎に活動が切れている印象を持つことが少なくないためです。

つまり、職員自身も頻繁に行われる人事異動のため運用方法の引き継ぎがきちんとされていないことから隊員活動に不都合が起きていますが、隊員間でも活動は分断されており、3年の任期中に学んだであろう様々なノウハウが引き継がれることなく、失われているのではないかと思います。

たとえば、任期中に起業を目指した先輩の経験などは間違いなく起業を目指す後輩隊員には役立つと思います。
しかし、おそらく実態として任期中も任期満了後も次の世代のためにボランティアでそのノウハウを残していく余裕がないという実情もあるのではないかと思います。

そこで、まだきちんと導入している自治体はないとは思いますが地域おこし協力隊の徒弟制度という考え方を導入してはどうかと思います。
具体的には、任期満了した隊員に対して現役隊員をサポートするという業務委託を行い、任期満了直後の経済的に厳しい隊員に対して経済的な支援を行うと同時に現役隊員のメンターとしての役割を担ってもらい、地域おこし協力隊として引き継ぐべき考え方やノウハウを伝承していくという方法です。

もちろん実運用時にはしっかりと人選をする必要がありますが、任期満了した隊員を含めた地域おこし活動の大きなコミュニティーを作り、今後必要となるチーム力を養っていくための一つの方法となる可能性もあることから一考の価値はあるのではないでしょうか。

(4) 途中退任者へのエグジットインタビューの実施

どんな事業・施策であってもPDCAサイクルをきちんと作ることは大切なことであり、地域おこし協力隊の制度の運用においてもこれまでPDについてお話しをしてきましたが、CAについては触れておりませんでしたので一部考えられることについてここで触れたいと思います。

地域おこし協力隊の運用におけるC(Check)のプロセスのインプットとして重要なものの一つに途中退任者や任期満了後に移住する方の意見をきちんと聞くということがあると思います。

一般企業の中でも人材の入れ替わりの多い外資系企業などではイグジットインタビュー(Exit interview:退職者の意見を聞く面談機会を持ち、その結果を今後の運用に生かしていくプロセス)が行われており、直属の上司ではなく、たとえば人事部の担当部長などが退職者と面談を行い、退職の本当の理由や原因について見極め、退職者を出した組織の長などにフィードバックすると同時にデータとしてきちんと蓄積し、組織全体の力の底上げに活用しています。

面談の内容が内部の不正の告発になることもあることからコンプライアンスの意識が高く、それなりの権限を持った方が面談をすべきであるため安易に導入できるものではありませんが、それでも、退職者は比較的しがらみなく本音を話しやすいことから、思いもしなかった問題が顕在化することもあるためぜひ検討すべきではないかと思います。

特に地域おこし協力隊制度は繰り返しお話ししている通りまだまだ発展途上ですので、学ぶことは間違いなく多く、きちんとした体制を整えて導入すべきだと思います。

最後に

地域おこし協力隊制度は非常に自由度が高い制度であるため既成概念を取り払いゼロベースで考えれば運用方法は無限にあると思います。また、多くの自治体が隊員を受け入れていることもあり地方自治体を取り巻く各種の制度やルールを踏まえながらもその運用方法は日進月歩で改善・改良され、進化しているとも言えます。

そのため他の先進的な事例を積極的に勉強すると同時に変革を恐れず、必要なものは取り入れ、日々隊員と接する中で隊員のニーズを拾い上げ、より良い運用方法はないか絶えず考え、それを実行していくという姿勢が求められるのではないかと思います。

前回ブログでもご紹介しました今回の調査においてある自治体の地域おこし協力隊受け入れ担当職員からお聞きした下記の言葉をここでもう一度ご紹介致します。
「出来るか出来ないかではなくやるかやらないか」
「成功の反対はやらないこと」
「小さな成功体験の積み重ね」

上記のようなシンプルなことが成功への近道なのかもしれません。また、結局この考え方自体が自治体職員が「誇り」を取り戻す道そのものではないかなと思います。

最後に一点お願いです。

現在昨年に引き続き2017年地域おこし協力隊向けアンケートを実施しています。
これまでに全24回となっている本ブログ「地域おこし協力隊の仕事」も昨年多くの方にご協力いただいたアンケートの結果が非常に重要なインプットとなっております。

アンケートは現役の隊員、任期満了された隊員、途中退任された隊員の皆さんが対象になります。
今回のブログの内容は主に受け入れ自治体の方向けに内容となりますが、ぜひ貴地域で活躍されている協力隊の皆さんにご紹介をいただければ幸いです。

アンケートは下記の「アンケートに協力する」ボタンをクリックいただくことでスタートします。
ご協力のほど何卒宜しくお願い致します。

皆さんの意見を聞かせください

地域おこし協力隊制度はまだまだ発展途上であり、事例やノウハウの共有が必須になります。
皆さんのご意見・ご感想などなんでも結構です。多くのコメントをいただき、本サイトが地域おこし協力隊のノウハウ蓄積・事例共有の場の一つになれば幸いです。