地方創生・地域活性化の第一線で活躍する「地域おこし協力隊」

未だ多くの課題を抱えている「地域おこし協力隊」制度について現役の隊員および受け入れ自治体職員への
アンケートおよび直接取材を通して浮き彫りになった現状とその可能性について共有するサイトです


先進自治体に学ぶ制度を有効活用する方法④ 〜採用準備および募集・選考〜

 
 

前回から先進事例に学び制度を有効活用する方法として具体的なポイントや注意点についてご紹介しておりますが、今回はその第二弾として「募集・採用」について先進事例に学ぶ具体的なポイントや注意点についてご紹介していきたいと思います。

現在約900の自治体で協力隊を受け入れており、一自治体に一人の担当者がいるとしても900名の担当者がいることになり、それぞれに地域の歴史、地域を取り巻く環境、組織文化、地域住民の方々との関係など千差万別だと思いますが、それでも、受け入れ担当職員の皆さんが地域住民・役場・協力隊の三者がハッピーになれるような制度活用の一助になれば幸いです。

なお、毎回の注釈で恐縮ですが、本ブログは協力隊や受け入れ自治体の職員の皆さんへの直接取材とアンケート調査*1の結果に基づく内容になっていること、全国で約4,000名が活躍する地域おこし協力隊全員にお話をお聞きすることは困難であることからお話をさせていただく内容はあくまでも一部から全体を推測するものであり、あくまでも傾向であること、そして、ご協力いただいた皆さんに匿名での取材をお願いしておりますので、個人・団体を特定できる情報は一切掲載していないことをご理解ください。


*1 : 2016年5月から7月にかけて地域おこし協力隊のみなさんを対象に行ったインターネットアンケート。結果の詳細はこちらをご覧ください。

採用準備

導入計画ができたら次は採用の準備です。

前回お話をした活動内容の明確化や導入計画の策定が完了していることを前提に採用の準備で最初にすることは募集要項作りではないでしょうか。
しかし、しっかりと計画を策定していれば募集要項は計画の内容を端的にまとめるという作業になるためそれほど難しくないと思います。

しかし、多くの自治体で隊員を募集している現場を考えると、より良い人材を獲得するためには単に募集情報を「伝える」だけの募集要項ではなく、背景にある思いが「伝わる」募集要項にすることが大切だと思います。

そのためには正しく情報を伝えることも重要ですが「誠実さ」「嘘をつかない」ことが最も大切だと思いますが、「誠実さ」とは丁寧に書くとか、優しい言葉で書くということではなく、地域の現状について包み隠さず率直に伝えると同時に隊員に期待すること、自治体や地域住民のサポート体制などをきちんと明記することです。

もちろん全てではないですが私が見る限り募集要項には、聞こえの良い言葉ばかりを並べていることが多く、厳しい部分や難しい部分など耳を塞ぎたくなるような現実について触れているものはほとんどありません。しかし、それはある意味、募集要項上ですでに嘘をついていることになり、地域おこし協力隊の活動のもっとも大きな妨げになる隊員と自治体職員のミスマッチがこの募集要項から始まっているとも言えます。

一方で募集要項にそんな難しいこと、厳しいことを書いてしまうと誰も応募してこないのではないかと考える方もおられるかもしれませんが、実はそんなことはなく、地域おこしに「思い」のある方は地域おこし活動とはどんなものかを理解しており、その厳しい状況をなんとか打破していくことに協力したいと考えているため地域おこし協力隊という仕事を選んでいるのです。
また、厳しい現実についてきちんと触れることで軽い気持ちで地域おこし協力隊を志す方が結果的に減少し応募者が精査されるとも言えることから、隊員と自治体・地域の接点のスタート地点である募集要項における「誠実さ」はますます重要であると言えるのではないでしょうか。

また、募集要項に記載することとして雇用形態や勤務時間などの様々な条件がありますが、それらを決定するときには前回触れた活動内容をきちんとイメージし、隊員が活動しやすく、隊員の心と体に十分に配慮した勤務形態と生活環境を踏まえた条件にすべきです。

具体的には、安心して活動ができるように雇用保険や社会保険は自治体側でカバーすることや地域や役場に早く溶け込める勤務形態が取れる雇用形態や生活環境にすることなどが挙げられると思います。
報酬額については特別交付税によりカバーされる金額が決まっているため、特別交付税を財源とする予算のみで考えると自ずと頭打ちになりますが、これまでお話ししてきたように地域おこし協力隊に期待することが明確になっており、その期待する成果に見合うのであれば、特別交付税を財源とする予算以外の予算からも拠出し、より柔軟な報酬額を設定しても良いと思います。もちろん、他の職員とのバランスも大切ですが、それは上述したとおり期待することを明確にし「報酬」と「義務」の適切な緊張感を持った運用を行うことで解決できるのではないでしょうか。

いずれにせよ長い目で見た場合に、地域おこし活動が進めば進むほど地域おこし活動の難易度は上がり、より高度な課題を解決することができるプロフェッショナルが求められると同時に隊員数が増えるなど関わる人間が多くなればなるほど人材マネジメント・チームマネジメントという概念が求められることから、柔軟な報酬体系、年齢・スキル・経験を生かしたチーム作りに耐えられる採用条件を考えておくことが重要になると思います。


募集・選考

採用準備が完了したら次に行うことは実際の募集と選考ではないでしょうか。

募集を開始するにあたり重要なことは着任してほしい時期から逆算してスケジュールを立てることです。では、着任時期はいつが良いのでしょうか。普通に考えると4月着任が良さそうですが、協力隊の運用ノウハウが少ない初めて隊員を受け入れる自治体では、予算編成が終わる直前の時期に着任してもらうのがよいのではないかと思います。
予算編成のプロセスやそのマイルストーンなどの細かい部分は自治体により異なるため予算編成に間に合う時期というのは具体的に「いつ」とは言えませんが、地域おこし協力隊の予算の計上が間に合うタイミングまでに隊員が着任できるようにスケジュールを考えるのが良いのではないかと思います。
そうすることで、着任後すぐに任期中の予算計画を話し合う機会も持てると同時に活動内容・目標スケジュールなどについて話す機会も自然に持てるため一石二鳥ではないでしょうか。

また、もう一点注意すべきことは生活環境の整備は余裕を持って行うことです。
居住先の決定など生活環境の整備が終わっていない状態で隊員の着任日が迫ってしまい、隊員が引っ越しの手配をすることもままならなかったという話もお聞きしており、募集開始日は、着任予定日から隊員の引っ越し、住居の手配などの生活環境の整備、結果通知、面接、書類選考、事前確認会など着任までにすべきことを逆算した上で着任する隊員および準備する職員共に無理のない形で決定すべきであると言えます。
また、着任前の辞退リスクは高まりますが、早めに結果通知を送ることも大事なことかもしれません。

次に選考に関してですが、求める人材像が明確になっていることが前提になりますが、その求める人材像を明文化し、採用基準・面接のチェックリストとしてきちんと選考に携わる関係者に伝えておくことが重要になります。
自治体の採用においては、一般企業で採用などに携わった経験がある身としてはそれ自体が是正されるべきではないかと感じることも少なくないですが、実際に日々の隊員活動をサポートする職員と選考を行う職員が異なることや頻繁に行われる人事異動のため企画した職員と実際に採用する職員、日々の隊員活動をサポートする職員が異なることも少なくなく、そのような環境下で選考において人材の見極めを一貫性を持って行うためには採用基準や面接のチェックポイントを文書化しておくことは必須だと思います。

また、求める人材をしっかりと見極める上で書類選考や面接の仕方についても注意が必要です。
お話をお聞きした中では、書類選考時にはその方のスキルや経験などを見るというより単に特別交付税の対象となる地域からの応募かどうか(簡単に言えば都市部からの応募かどうか)だけを見ているという話や面接においては理事者(首長、教育委員長などの自治体におけるトップ)のみが行っており、担当する職員や受け入れ集落・団体の関係者は一切関与していないという話もあり、これでは求める人材を見極めることは到底出来ませんし、着任後に隊員と受け入れ担当者の間にギャップが生まれて当然です。
第十九回「協力隊導入前にすべきこと」でもお話したように専門組織を作り、専任の職員が一元的に対応できればこんなことにはならないのでしょうが、それが難しい場合には、せめて担当者も書類選考に加わり、面接時には担当者も同席させるなど複数の目で人材を見極める環境作りが必要だと思います。

また、言うまでもないことですが履歴書などに書かれた内容や一度や二度の面接で応募者の人となりを見極めることは非常に難しく、特に応募の背景にある「思い」や「定住の意思」については表面上の文書や会話から見極めることは困難であることから、応募前・面接前などのタイミングで見学会や説明会などを設け、応募者とできる限り多くの接点を持つことが重要になると思います。
事前見学会や説明会を開催することは、選考を行う自治体にとっては人材の見極めという意味で重要ですが、応募する隊員にとっては活動する環境や活動内容、活動に関係する方々を肌で感じることできるため双方にとって有益であることからぜひ実施すべきことではないかと思います。


最後に

人の採用シーンには、採用を行う組織の文化やその組織に属する人間の個性や人と向き合い姿勢が色濃く出ると思います。

アンケートに回答頂いたある協力隊の方のコメントに「面接時に相手をよく見るように」とありましたが、その方は採用シーンの中でも面接時に募集組織の実態がもっともよく現れることをご存知なんだと思います。

その採用シーンにおいて地域の現状を誠実に包み隠さず伝えること、胸を張って地域おこし計画を説明できること、その計画の実現のために必要な人材を頭の中でクリアにイメージできれば、地域おこし協力隊の導入は半分成功したと考えて良いのではないでしょうか。

一方で選考に関しては、選ぶ側は自分より能力の高い人材を選べないという話がよく聞かれ、個人的にはこれが地域おこし協力隊の採用の大きな問題の一つになっているのではないかと思います。
人は自分が知らない世界を恐れる習性があり、これは仕方がないことかもしれませんが、自分ができないことを期待しているのであれば、それも乗り越え、積極的に異物を組織に取り込むことで世界を広げることも重要だと思います。

次回は、「受け入れ態勢・活動費の運用」についてのポイントや注意点についてご紹介致します。

最後に一点お願いです。

現在昨年に引き続き2017年地域おこし協力隊向けアンケートを実施しています。
これまでに全21回となっている本ブログ「地域おこし協力隊の仕事」も昨年多くの方にご協力いただいたアンケートの結果が非常に重要なインプットとなっております。
アンケートは現役の隊員、任期満了された隊員、途中退任された隊員の皆さんが対象になります。
今回のブログの内容は主に受け入れ自治体の方向けに内容となりますが、ぜひ貴地域で活躍されている協力隊の皆さんにご紹介をいただければ幸いです。

アンケートは下記の「アンケートに協力する」ボタンをクリックいただくことでスタートします。
ご協力のほど何卒宜しくお願い致します。

皆さんの意見を聞かせください

地域おこし協力隊制度はまだまだ発展途上であり、事例やノウハウの共有が必須になります。
皆さんのご意見・ご感想などなんでも結構です。多くのコメントをいただき、本サイトが地域おこし協力隊のノウハウ蓄積・事例共有の場の一つになれば幸いです。